弥生一日 曇り時々雨
菜の花が農園の畑に咲き乱れて数週間、黄色に広がる帯は畑の風物詩となっていた。自然農に触れて初めて知ったことは数知れないが、菜の花もその内の一つである。
白菜、キャベツ、小松菜、水菜、タアサイ、野沢菜、チンゲンサイ、はたまたカブに至るまで、これみなアブラナ科の植物。これらアブラナ科の植物は、菜っ葉のうちに食べているので普段はなかなか気づかないのだが、人間がいずれは子供を授かるように、当然花をつけて種を残そうとするのである。つまりは、みな、アブラナとして、同じように「菜の花」を咲かせるのだ。
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@小松菜 A真菜 B水菜 C野沢菜 Dタアサイ …違いわかる?
ぱっと見ても、区別しがたいほどに鮮やかに黄色く匂いたつ菜の花たちには、見事に遺伝子の不思議さを感じさせられてしまう。
花をつけて種が出来るとなれば、やはり自家採種したいのが百姓の性であるが、そうは問屋が卸さない。アブラナ科の野菜は、ミツバチなど昆虫によって受粉する性質をもち、その多くは交雑して、次の世代の野菜たちは異種混合のハーフの子になってしまうのだという。つまりはチンゲンサイと水菜のMIXや、白菜とカブのMIXなど、安定した種類の野菜の種を望むのは難しいらしいのだ。交配を一手に担う、ミツバチの飛来距離を甘く見てはいけないのである。
さて、つくし農園の畑にもう一度目を向けると、一面に咲く菜の花たちを尻目に青々と元気に葉を茂らせる一群が目に入る。遅蒔きして今の時期に盛りを増す小松菜の一群だ。ここの土地との相性も良かったようで、葉の育ち方も他を圧倒して元気が良い。つまりは、この小松菜の種を採ることが出来れば、つくし農園に適した小松菜の種を手に入れられるかもしれないということではなかろうか。善は急げ。そう、交雑は待ってくれない。今まさに、蕾を伸ばし始めるこの小松菜が開花する前に農園の菜の花を刈ってしまえば、他と交雑することなく良質の種を手に入れることができる。
そう判断したインチキ百姓は、農園に散らばる可憐な菜の花の区画のプレーヤーに協力を仰いで、週末から菜の花掃討作戦を慣行中です。このあまりにも人間本位な試みに、自然はいかなる判断を下すのか。しかし、それが農業という、人類の背負った巨大な「業」でもあるのだな。