霜月廿六日 晴れ
ぐん、と冷えてきた。毎朝の霜は言わずもがな、このところ水溜まりには薄氷が張り、霜柱が立つような寒さの朝を迎えている。
自然農の畑は、優しい。秋口に静かに葉を伸ばした雑草が大地を覆い、羽毛が空気を取り囲んで暖かさを保つように、無理なく、しとやかに、表土を守っている。隣接の畑では、剥き出しに耕起された土が守られる術がなく、霜柱が立ち日照りで溶けての朝晩が毎日繰り返されている。とはいえ、草に覆われているといえども、氷点下を下回るような冷え込みでは自然農の畑でも霜柱は避けられない。特に晩秋に種まきして作物以外には草が芽吹いていないような場所では、雑草の根が土を抱えていないために、草が生えている箇所よりも霜柱が立ちやすい。つまり、もっとも秋深くに種まきした麦の畑で(特にちょうど種まきしたすじにそって)霜柱が立ちやすくなる。
霜柱は、表面から数mm〜数cmの土を持ち上げる。霜柱で持ち上げられたの麦は、まだ土中に伸ばしきれていない若い根が、朝には凍って押し上げられ、日中は乾き、また翌朝凍り、根を伸ばせずに立ち枯れていってしまう。それを防ぐ手段が、ふみふみふみふみ、冬の麦踏みなのだ。

自然農では、畑の中、いわゆる作物を育てる畝の中は基本的には足を踏み入れることをしない。団粒構造が自然に作り上げられる土の上を歩いてしまうと、人間の体重で踏み固めてしまい土が潰れてしまうからだ。なので作業をする時はいつも一段低くした溝を通り、野菜たちのサンクチュアリをなるべく犯さぬよう、大事に大事に見守っている。
麦踏みは、このサンクチュアリを荒らす、背徳感たっぷりの嬉し恥ずかしのワクワク作業。普段穢すことのない畝に足を踏み入れ、しっかりと、厳かに、麦も土も踏み固めてしまうことのないように優しく優しくふみふみしていく。強く踏んでは土が固くなり、麦の芽も潰し、栽培自体も損なってしまう。しかし程よく体重を乗せることで、霜柱が立たないように土を踏み締め、麦の成育促進を引き出し、一石二鳥の効果を発揮するのである。
今年は畑に同行した家族3人で、それぞれの歩幅にあわせて麦踏み行脚。ぬけるような青空と筑波颪の中、ふみふみふみ。そのうち有酸素運動効果で体の心からぽかぽかぽかと暖まるのであります。
以上、雑草屋個人の経験的見解ですのであしからず。
第六十五候: 冬至 次候
【麋角解(さわしかつのおつる)】
=大鹿が角を落とす=
(新暦12月27日頃〜12月31日頃)