注)記事の日付は太陰暦を用いております

2013年09月18日

野分(のわき)

葉月十四日 晴れ

 一昔前の日本では、秋、特に二百十日(9月11日ごろ)を過ぎるころから訪れる、強い雨風を野分(のわき、のわけ)と呼んでいた。明治時代に気象用語として「台風(もともとは、タイは風偏に台の字)」という言葉が使われて現在に至り、今では野分という言葉はほとんど使われることがなくなった。思いを巡らせてみれば、天気図などは明治時代、気象衛星にいたってはつい35年ほど前からの運用であり、天気予報についても現在のような気象観測による予報などはされるはずもなく、農民にとって天気とは、もっぱら「読み」と「受け入れ」によって対応されるものであったに違いない。もちろん、その「読み」は現代人にはとうてい持ち得ないはるかに繊細な技術と伝承が残されてきたはずである。つまり、我々がいとも簡単に手に入れている「天気図」や「ひまわりの画像」がない頃は、渦巻状に表現される現代の台風的な認識は存在せず、二百十日を過ぎる頃にしばしば強い雨と風が訪れ、その後にからりと晴れの天気となる、という現象のみが存在していた。それをご先祖様たちは、強風によって草が押し倒される様をとって「野分」と名付けたのだろう。

 さて、先日の野分。日本各地に大きな被害をもたらした台風18号がつくばも通り過ぎた。方々から、ご心配の声もいただいたが、幸い小生の田畑には目立った影響もなく過ぎ、胸をなで下ろしている。

 この夏の、とりわけ少なかった雨に苦しんだ田んぼでは、本当に久しぶりに水面があらわれた(水田に久しぶりに水面があらわれるというのもおかしな話であるが)。稲に瑞々しい活気が取り戻され、遅まきながらも、不幸中の幸いながらも、安堵の気持ちが訪れた。野分の字面どおりに倒伏してしまうような稲穂もほとんどなく(一部の、生育が早かった農園プレーヤーさんの区画には少し傾いた区画も見られたが)、むしろ水面のにぎわいを稲が楽しんでいるように感じられるほどだった。
 
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 畑では、たっぷりの保水に喜び勇んだかどうかはわからないが、台風襲来直前に播種した葉物野菜の種が、そろって発芽していた。蒔いても蒔いても日射に負け気味だった8月に比べて、なんとも嬉しい一斉発芽であり、思わずニヤニヤがとまらない自分がいた。


 ふと、隣接する、耕起に耕起を重ねている、農家さんの畑地が目に入る。特にその畑地は、栽培目的ではなく、ただ雑草を生やしたくないという理由で年に何度もトラクターによって耕されている、軽油を使用して大地を引っ掻き回しているだけという、なんとも不思議な土地だった。(そういう土地は実はこの周囲には多くみられるのだが。) その、土がモコモコに耕された大地は、今回の強い風雨によって大きく削られ、流されていた。そしてその流出は、決して今回の台風に限ってのことではなく、また決してその土地だけに起こることでもなく、日本中世界中で行われている「耕起」された大地に雨が降った際に起こる土壌流出現象の、氷山の一角に過ぎない(詳しくは記事最下部参照)。どこでもいつでも、土地が耕されて雨が降るかぎり行われる、ごくごく日常の光景の、ちょっと目立った現象なのだ。

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 一方自然農の畑に目を移す。そこにはむせ返るほどの雑草と作物が生えており、多くの大地は表土が守られている。雨が降って叩くのは土壌ではなく、葉であり枯れ草であり、直接土には当たらない。また伝わり落ちる雨水は土を洗い流さず、根っこや枯れ葉に守られた土はそれほど流出することなく済んでいる。大豆は、足元の土壌が流されずに土が減ることもなく、また下草にも支えられたのか倒れるそぶりも見せず、変わらず残っていた。台風直前に蒔いた種も、種まき後に上に掛けた枯れ草によって守られ、流されずに済み、台風一過の陽気を受けて盛んに発芽した。

 
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 自然農以外をほとんど体験したことがない小生にとって、その他の農地で台風後にどんな様子になるのか、明確に体感したわけではないのだが、あえて自分中心でいえばこの自然農の田畑の優しい様子は、いつもストレートに心に染みる風景となっている。

 今回は、たまたまに、流されずに倒されずにすんだ規模の野分だっただけであり、過去に、はるかに強い雨風に襲われた際には、水に浸かるわ畝は崩れるわ作物は軒並み倒されるわ、ということもあったのだけどね。とはいえ、自然農には、ちょっと変化球的な、こうした環境保全的な側面もあるのです。

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※蛇足であるのを承知で付け加えれば、こうした土壌が流される問題は、「土壌流出」や「表面流出」といったキーワードで農業や環境問題の世界規模の課題として認識されている。単に土壌がやせてしまうという現象についてのみならず、特に現代農業での化成肥料や農薬などの化学物質の流出(場合によっては過分な有機肥料も問題とされることもある)による環境汚染などが、世界規模での大きな問題となっている。

 参照:土壌流出(wikipedia) 、 表面流出(wikipedia)


posted by 学 at 22:34| Comment(0) | TrackBack(0) | 本質を考える | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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