注)記事の日付は太陰暦を用いております

2014年09月12日

五感すべてで

葉月十九日 雨のち晴れ

 立秋(8月7日ごろ)から秋分(9月23日ごろ)までの、ちょうど夏と秋が交差するこの時期。春から夏への、万力で締め上げるようなじわりじわりと暑さがにじり寄ってくる様と違い、実に清々しく、秋が押し寄せてくる。その様子を、まざまざと五感で感じられるのが、白露を迎えるこの時節である。

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 朝7時、しっとり明るくなった畑の中を歩くと、盛夏の頃には及ばないものの、足元の露が地下足袋がじっとりと沁みて、思わぬ足の冷たさに気づく。夏至を過ぎた7月の頃なら、朝5時前から田んぼに埋もれて田植えをしていれば、7時になるころにはもうギラギラの太陽が首を焼き始めていた。足もとの水田からはむんむんとした湿気が立ち込めて、あっという間に玉のような汗が額から噴きだす。それに比べてどうだろう、この朝露の冷たさは。このあきらかな肌感覚の違いに、季節の移ろいを生々しく感じさせられる。


 夏の盛りの梅雨明けの畑には、濃緑色の雑草が、この世の春とばかりに(夏ですが)光合成を満喫する。その色は、紫にも群青にも近いような、果てしなく濃い、緑色である。自然農の野菜の淡色の緑に比べて、その雑草たちの吸い込むような緑は、何年過ごしても息を呑むほどに深い。9月、朝露の畑から腰を上げてふと周りを見渡すと、畑のあちらこちらに、早くも種をつけ始めたマツヨイクサや萩の種が黄緑色から薄茶色に変わり始めている。深い緑の洪水は徐々に色を落とし、朝露が乾くたび、一日一日少しずつ、畑を秋の色に塗り替えていくようだ。視覚で味わう、秋の入り口である。

 
 草刈りの続きをすべく腰を落とすと、耳に届いてくるのは、コオロギの大合唱。あれほどに、大音響で世界を包み込んでいたセミのオーケストラはどこへやら、いまやツクツクホウシが申し訳程度に遠くの林から鳴くばかりである。時折雲間から届く強い陽射しに夏の名残を感じるものの、やはりセミの大音響がないとどこか物足りない。あの暑苦しさの記憶はセミと共に消えてしまったのだろうかと思うほどに、秋の虫の声は、涼しさを届けてくれるようだ。


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 畝の合間を草刈りしながら進んでいくと、鼻をかすめるのは夏に刈った草がしっとりと枯れていく腐葉土の匂いだ。真夏の草刈り作業は、とにもかくにも「草いきれ」に包まれていた。ムンと匂い立ち、息がむせるような瑞々しさと猛々しさの混ざったような臭気。自身の汗の匂いと絶妙にブレンドされて届くその香りは、まさしく生命力に溢れているようだった。今、草間から香るのは、夏に刈り倒れたのちに分解され始めつつある、優しくも力強い枯れ草の空気だ。しかしそれは晩秋の眠りゆくような静かな匂いではなく、これから秋が深まるにつれて熟成していく前の、どことなく若々しさを感じさせるような、青さを残している。それもまた、この時期にしか味わえない独特の、爽秋の匂いである。

 
 夏の炎天下に、早採りのキュウリをもいでかじったあの味は、まさしくオアシスの味だった。旨みというよりは、価値は水分にこそあり、自分の欲するものとキュウリが蓄えようとするものが一致し、ジューシーで弾くような瑞々しさに喉を潤していた。そのころのキュウリと今のキュウリは、同じ種類だろうかと首を傾げるほどに味が変わったように感じる。水気がしまり、細胞の一つ一つに旨みが宿るような繊細な味わいを、おそらくキュウリ自身も準備し、こちら側もその味わいを感知する用意ができているのだろう。この夏から秋へ進む季節が届けてくれる、ほのかな、たしかな秋の味覚のひとつである。

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 全身で、五感全てで感じる、季節の移り変わり。雑草が生え、機械音にさえぎられず、肥料や農薬の匂いに邪魔されることのない、自然農だからこそ味わえる、この醍醐味。たとえ毎日ではなくとも、週に一度でも、月に一度でも、自然農の田畑に立って季節を過ごせばこそ、体に沁み込んで体感できるのだ。映画やテレビの3D作品や、ハイテクアグリビジネスや屋上菜園では決して手に入らない、なにかがある。原始と文化が同居し、かつ自身の感覚を開放することで手に入る、人間のもっともシンプルな「楽しみ」がここにある。


 さあ自然農、始めちゃおうよ。 
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 ※つくし農園 プレーヤー随時受付中♪



 そうそう、忘れちゃいけねえ。野良仕事を終えた後の最後の締めに訪れる、夏から秋への最大の変化を感じる瞬間を。

 真夏の最高の楽しみだった、キンキンに冷えた井戸水の水シャワーが、恐怖に変わり、ついに給湯器のスイッチを入れる。そしてお湯シャワーのホカホカに、心ゆくまで包まれるこのとき。全身全霊をもって、秋の始まりを実感するのだ。



第四十三候: 白露初候
【草露白(くさのつゆしろし)】
=草に降りた露が白く光る=
 (新暦9月8日頃〜9月12日頃)
七十二候を“ときどき”取り入れています※


posted by 学 at 22:23| Comment(0) | TrackBack(0) | 自然農のこと | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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